研究概要 |
初年度の研究において,我々は生体の非特異的防御能の重要な指標である好中球NADPH酸化酵素に対するステロイドをも含めた抗炎症薬による修飾機構を検討した。ステロイド投与後の患者の本酵素活性は投与前の同活性に対して40%に低下していた。抗炎症薬は,全無細胞系で濃度依存性および前処理の時間に依存して本酵素活性を抑制した。それぞれのID_<50>値は,ハイドロコ-チゾン40μM,インドメサシン180μM,サリチル酸1.3mM,アセチルサリチル酸1.35mMであった。また,これらの抗炎症薬は本酵素のNADPHに対するKm値を変化させなかった。以上の結果より,これらの抗炎症薬は本酵素のNADPHに対する親和性を変えずに本酵素を阻害し,その作用は酵素の活性化を抑制することが示唆された。 最終年度の研究において,好中球NADPH酸化酵素活性の宿主間の比較および抗生物質投与の影響を検討するとともに,in vitro系でステロイド処理した好中球の本酵素活性化様式をも検討した。全細胞系における非喫煙若年健康成人の本酵素活性において,女性は男性に比較して約2分の1の活性で,有意に低下していた。女性では加齢により有意に上昇したが,男性では変化しなかった。若年成人では細菌感染により本酵素活性が有意に上昇したが,高齢者ではその有意な上昇を認めなかった。しかし,両者において,抗生物質投与後,同酵素活性が有意に低下した。以上より,非喫煙若年健康女性で本酵素活性が最も低く,生理的ストレスが少なく細胞環境が良いこと,および女性ホルモンの関与が考えられた。高齢者では感染時における好中球の反応性低下が示唆された。また,無細胞系の実験において,ステロイドは好中球膜酵素系を抑制することが示唆された。しかし,これらの抗炎症薬は無細胞系での本酵素活性化後の活性に対しては抑制しなかった。
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