研究概要 |
下垂体前葉は成長、代謝、免疫、生殖に関る重要な6種類のホルモンを産生する内分泌器官であり、それらのホルモンは原則的に別々の腺細胞から分泌される。これらの細胞がどの様にして分化するかは、内分泌細胞に限らず広く細胞の分化の解明のために重要な課題である。本研究ではプロラクチン細胞の分化機構を例にして研究を行い以下の結果を得た。 1)エストロゲン誘発下垂体腫瘍から新しいホルモン産生株を樹立した。 2)これらの細胞株の内、MAT/Sは成長ホルモン(GH)のみを産生し,プロラクチンを産生しない。また,分裂中の細胞もGH分泌果粒を持つ他,プロモデオキシウリジン(Brdu)で標識される増殖中の細胞は全てGHを持つことが明らかになった。このことからMAT/SはGH細胞として分裂増殖している細胞である。 3)MAT/Sにインスリンかインスリン様成長因子(IGFー1)を作用させるとGH細胞が著しく少なくなり、やがてプロラクチン細胞が出現する。 4)このことからGH細胞としてのMAT/Sはインスリンが,IGFー1,によってプロラクチン細胞に分化転換することが明らかになったが,生じたプロラクチン細胞にはGHの存在を証明できない。すなわちMAT/Sは一旦脱分化した後にプロラクチン産生細胞に転化することが示された。 5)この分化転授は上皮成長因子の共存で著しく加速され、2日間の刺激で多くのプロラクチン細胞が出現した。またこの過程でGHとプロラクチンを同時に持つソマトマンモトロクが出現した。ソマトマンモトロフの存在意義は不明であったが、今回の結果からこの細胞はGHからプロラクチン細胞への分化転換過移の細胞である事が示唆された。
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