研究概要 |
本研究は,1.寡占的な国際経済における国際貿易の諸問題,2.各国間の貿易政策の戦略的相互依存関係とGATTルールの意義,3.動学的最適化貿易モデルによる貿易と対外資産・債務の動きの分析および各国の各種政策による国際的波及効果と各国の厚生水準への影響,という三つの柱のもとで進められた。また,この三つのテーマのそれぞれは,以下に示すように,小野と個々のテーマの分担者との共同研究という形で行われた。 1.ラヒリ教授(S.Lahiri)とともに,競争的部門と独占部門の並存する開放経済において,両部門の技術進歩の経済厚生水準への効果を分析した。その結果,同じコスト減少技術を比較すると,独占的な部門の技術進歩の方が,その経済厚生により大きく貢献することが示された。また,競争的部門と寡占的部門とが並存する2国モデルを構築し,寡占部門の存在する経済での貿易の利益を分析した。その結果,自由参入があれば貿易によって要素価格均等化定理が成立し,また通常の貿易利益が存在すると同時に,各国の寡占部門における独占度を低下させるという,貿易利益の新たな側面が明らかにされた。(研究発表リスト中の第4論文) また,研究開発投資を考慮にいれた国際間の企業の競争において,企業数の制限や研究開発補助金といった産業政策が世界経済の厚生に及ぼす効果を分析した。その結果,寡占的な市場構造を与えられたものとすれば,大企業ほど研究開発投資を行う傾向があり,少しでもコスト面で優れた企業があれば,その企業に補助金を与え,他の企業は制限を加えた方が世界全体の厚生水準からみて望ましいことがわかった。(第5論文) 2.イートン教授(J.Eaton)とともに,国際貿易ルールのない経済にGATTにおける限定的報復を許す緊急輸入制限条項を導入することによる影響,さらにそれに加えて自主規制というGATTの枠組みを越えたルールを導入することによる影響を,無限段階政策決定ゲームを構築して調べた。その結果,緊急輸入制限条項の導入は自由貿易体制におおむね貢献するが,輸出国の制限と輸入国の報復という,二重の制限に陥る可能性があることも示した。さらに,GATTの報復条項の存在のもとでは,自主規制もさらに不要な非効率を防ぐ場合があることがわかった。(第3,第6論文) 3.動学的最適化貿易モデルの研究については,永谷教授とメアッツィ教授との意見交換をもとに(1)池田新介助教授(大阪大学)とともに主観的割引率の違う多国モデルを使った分析を,また(2)柴田章久助教授(大阪市立大学)とともに,資本蓄積を明示的に扱った二国モデルを使った分析を行った。 まず,(1)については,池田助教授とともに,3国モデルを使って各国の対外債務の動学的均衡経路経路を調べ,それが単調な上昇や減少だけでなく,釣り鐘型やU字型といった多様な形を持ちうることを示した。(第2論文)また,2国モデルを使って,財政支出や資産保有税等が自国及び外国の対外資産や経済厚生に与える影響を理論的に求め,相手国の対外債務を減少させるような自国の政策は,かえって相手国の経済厚生を低下させてしまう可能性のあることがわかった。(第7論文) 次に,(2)については柴田助教授とともに,まず2国1財2要素モデルにおいて企業の最適資本蓄積行動を導入し,各国のマクロ経済政策や技術進歩等が,自国および外国の厚生水準に与える影響を調べた。その結果,債権国の技術進歩は,債務国の厚生を引き下げてしまうこともわかった。(第1論文)さらに,これらを2国2財2要素のモデルに拡張し,各国の財政支出が及ぼす自国および外国の消費,資本蓄積,経済厚生への効果を求めた。その結果,外国の経済厚生への効果が伝統的な同時点内の交易条件効果というミクロの効果に加えて,対外資産の正負に依存する利子率への効果,すなわちマクロ的な時点間の効果からなることがわかった。したがって,外国からの輸入財への財政支出によって相手の交易条件を改善してやっても,その利子率への影響によって対外債務への利子支払い(あるいは対外資産への利子収入)が変化し,外国の厚生水準がかえって下がってしまう可能性のあることを示した。(第8論文)
|