研究概要 |
生体関節と人工関節における多モード適応潤滑機構を解明するために,関節モデルおよび生体関節軟骨の摩擦試験や人工関節の歩行シミュレータ試験,人工軟骨材料PVA(ポリビニルアルコール)ゲルの評価試験を行うとともに,歩行時の膝関節部の動的挙動との関連を検討した. 1.生体関節における多モード適応潤滑の解明 ゲル膜潤滑と滲出潤滑に着目した.ゼラチンゲル摩擦面をゼラチンの低濃度溶液で潤滑した摩擦試験では,ゲル膜が沈着しやすい条件下で最小摩擦状態を実現できることが判明した.また,豚肩関節軟骨の摩擦試験により,ゲル膜潤滑の挙動の変化を観測できた.滲出潤滑作用に対しては,軟骨表面のレーザ顕微鏡による表面画像と形状の時間変化の観測により,部位による自由水の移動の差異を識別できた.PVAゲルにおける滲出挙動の可視化観察により,滲出水による低摩擦の実現を確認できた. 2.人工関節における多モード適応潤滑 人工膝関節のシミュレータ試験により,従来材料製の円筒型と,解剖学的デザインの大腿部とシリコーンゴム製の脛骨部から構成される人工膝関節では,0.1Pa・s程度の中粘度の潤滑液使用下で,かなりの弾性流体潤滑膜が形成されることを実証した.潤滑液の粘度が低い場合には,多モード適応潤滑機能が必要となるため,滲出効果を検討した.ステンレス鋼製大腿部とPVA製脛骨部から構成される円筒型人工膝関節は,低粘度潤滑液のもとでも極めて低い摩擦状態を実現できた.また,形成的な観点から多モード潤滑を実現する案として,二円弧型膝関節の評価を試みた. 3.生体関節と人工関節の臨床評価と潤滑モード 表面損傷をきたし潤滑機能も低下した変形性膝関節症患者では,歩行時には接地直後に過大な側方加速度が発生し,足底板により改善できることが実測で判明し,関節機能の臨床的評価の手段としても有用であることがわかった.
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