研究概要 |
Wilkinson錯体として知られるRhCl(PPh3)3は、錯体触媒の中でも最も重要なものの一つであり、均一系水素化に利用されよく研究されている。この錯体による有機化合物の均一系水素化は、Pt,Pd,などの金属を固体触媒として用いる不均一系水素化で触媒毒となるS原子を含む有機化合物でも、あまり触媒毒にならず水素化できることが一つの大きな特徴とされている。しかし、S原子を含む有機化合物としては、チオフェン誘導体など少数のものについて簡単な報告がなされているだけである。そこで、本研究では、S原子を含む気質として、4-チオクロモン誘導体[1]および[1]の1,1-ジオキシド誘導体[2];3-ベンジリデン-4-チオクロマノン誘導体[3]および[3]の1,1-ジオキシド誘導体[4]をとりあげ、Wilkinson錯体触媒による水素化を検討した。その結果、[1]の水素化では、2-メチル-4-クロモン[la]は約30%相当する4-クロマノンに水素化されたが、他のクロモン誘導体では殆ど原料回収に終わった。これに対して、[2]の場合は、いずれも水素化され、相当する4-クロマノン誘導体[5]が高収率(80〜90%)で得られた。[2]で2と3位にメチル基をもつ誘導体の水素化では、4-クロマノン誘導体[5]のcis-体とtrans-体の約1:1混合物を得た。[3]の水素化では、少量の異性化物(3-ベンジル-4-チオクロモン誘導体)の生成を伴って、飽和ケトン[6]が得られた。また、[4]の水素化では、[2]の場合と同様、相当する3-ベンジル-4-クロマノン誘導体[7]が高収率(80〜90%)で得られた。 以上の結果から、[1]と[2]の違いは-S-結合と-SO_2の触媒への配位能の差、[1]と[3]の違いは2位の炭素の結合状態の差によるとし、水素化は“Stepwise hydrogen transfer"機構で進行したと考えた。
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