研究概要 |
我々は,石綿加工工場などの作業環境中の浮遊繊維数濃度を計測するために,画像処理の手法を用いた自動計数システムを開発してきた。今回の研究の目的は,このシステムにより,一般環境中の石綿の繊維数濃度を計測するための手法を開発することである。 一般環境中の粉じんは作業環境中のそれとは異なり,以下のような問題点がある。(1)非石綿繊維が多量に存在する。(2)石綿の繊維数濃度は作業環境中のものに比べてたいへん低い。 従って,一般環境中の計数試料を,作業環境中の場合と同じ方法で作成するには若干問題がある。この問題を解決する一方法として,サンプリングに慣性集じん法の一つであるカスケード・ハインパクタを使用する方法(以下インパクタ法という)を提案した。この方法は従来から用いられてきたメンブランフィルタ法に比べて,酸やアルカリなどを用いた化学処理や熱処理を併用することができる長所がある。 これらを用いた結果,以下のことがわかった。(1)インパクタ法のサンプリングの空気流量は,メンブランフィルタ法に比べて大きく設定でき,サンプリング時間が短縮できる。(2)インパクタのノズル径を適切に設定すれば,計数誤差の原因となる微小粒子を補集しなくてすむ。(3)一般環境中の浮遊繊維状物質の大部分を占める綿や合成繊維は,試料作成時に適切な化学及び熱処理を施すことにより除去できる。(4)直列4段のインパクタの総合捕集効率は90%以上を示した。 本システムの性能を確かめるために,6肉眼計数機関相互間の比較試験を行った。この比較試験は,通常実施されている計数値だけの比較に留まらず,計数繊維を特定することにより,各計数機関の独自の計数基準を探った。その結果,計数値の最大と最小の比は約5となり,各計数機関が異なった計数基準で計数していることが示唆された。また,肉眼計数では繊維の直径が過大評価され,太めの繊維は計数されないことがわかった。
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