研究概要 |
心筋細胞にはNa^+、Ca^<++>、K^+チャネルが存在かる事は古くから知られる所であったがCl^-チャネルが存在するか否かに関してはごく最近まで明らかとなっていなかった。近年、心筋細胞においてβ受容体刺激によって活性化するCl^-チャネルが存在する事が明らかとなったが、それでは他に心筋細胞に伸展刺激あるいは膨化によって活性化するCl^-チャネルが存在するか否か、あるいはそのCl^-チャネルがβ受容体刺激によって活性化するものと同様か否かを検討した。単離した心筋細胞を低浸透圧液に曝すと細胞が膨化した。また乳頭筋標本において、同様の低浸透圧液で表面潅流すると静止膜電位の減少と共に、細胞内Cl^-活動度が減少した。その変化は細胞内K^+活動度の変化より大きくCl^-電流が活性化し内向き電流が流れ、細胞内Cl^-活動度が減少したものと考えられた。この静止膜脱分極は4,4'-diisothiocyanatostilbene-2,2'-disulfonic acid(DIDS,1mM)によって抑制されたがanthracene-9-carboxylic(9AC,1mM)によって抑制されずβ受容体刺激時の静止膜脱分極反応と性質が異なっていた。以上の結果より、低浸透圧液により心筋細胞を膨化させると静止膜脱分極を引き起こすが、その一部には膨化によって活性化されるCl^-電流が関与することが示唆された。またそのC1^-電流はβ受容体刺激によって活性化するCl^-電流とはCl^-チャネル遮断薬に対する感受性が異なっており、別種のチャネルを介するものである事が示唆された。この様に心筋細胞においては少なくとも2種類以上のCl^-チャネルが存在し膨化によって活性化するC1^-チャネルは静止膜の脱分極を引き起こし、不整脈発現に関与する可能性があると思われる。
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