研究概要 |
核四極相互作用を有する酸素-17原子核の核磁気共鳴(NMR)法によって結晶のサーモクロミズム(熱変色性)の分子論的な機構を明らかにすることを目的として、天然存在比0.038%の^<17>Oの核四極共鳴信号を観測するための^<17>O-^1H二重共鳴装置を開発した。この装置は、強磁場中(Oxford社製4.7T超伝導磁石)でプロトン(^1H)の核スピンを分極させた後,試料やゼロ磁場領域に断熱的に移動させ、^<17>Oなどの核四極相互作用を有する希薄スピン系にその共鳴ラジオ波を照射し,試料を再び強磁場内に戻して分極移動によるプロトンの共鳴信号の減少を観測する(この観測にはBruker MSL-200NMRシステムを使った)。試料移動には,平成4年度に市販の試料搬送シリンダーを用いて製作した加圧型試料移動装置を用いた。試料移動距離80cm,移動時間は1.5秒である。ラジオ波照射位置における約10mTの漏洩磁場は,平成4年度に製作したソレノイド型電磁石に13.8Aの直流を流すことによって消去した。ラジオ波照射は,周波数シンセサイザの出力を20w広帯域電力増幅器で増幅し,LC同調回路に供給することによって行った。^<17>の核四極共鳴を自動的に観測するために,BASICとアセンブラによる自動測定プログラムを開発し,パソコンによって装置の制御・データ収集を行った。結果の解析はパソコンとワークステーション(HP9000/710)により行った。この装置によって,アセトアミドにおける^<14>Nの核四極共鳴信号がきわめて高感度で観測できたが,サーモクロミックな物質であるN-サリンシリデンアニリンその他の類似物質では^<17>Oおよび^<14>Nの共鳴は観測できなかった。その理由としては,これらの物質におけるプロトン共鳴の感度が低く,データのばらつきが大きくなること,^<17>Oにかけるラジオ波磁場の強度が不足していること,などがあげられる。
|