研究概要 |
幹爬虫類は哺乳類や鳥類への進化の源泉となった動物であるが,現生のカメは幹爬虫類の時代の祖先型を構造的に最も残した種である。従ってカメを用いて学習機構を調べることは行動の系統発生を推測する上で重要な手掛りを提供するものと思われる。本研究課題ではクサガメを用いて学習の逆説現象の有無を調べ,情報処理様式を比較心理学的に検討した。2年度に渡り,(1)報酬学習に関する逆説現象と,(2)弁別学習における逆説現象としての過剰訓練逆転効果(ORE)を吟味した。 (1)に関しては,学習条件を集中訓練にすれば逆説効果は脊椎動物の多くの種で観察されるが,1日1試行のような分散条件では哺乳類,鳥類で肯定的結果が見られるだけである。この条件で爬虫類を用いた比較研究は極めて少ない。初年度の探索的研究を基に手続を改良し,直線走路を用いて部分強化消去効果(PREE),小報酬消去効果(MREE),継時的員の対比効果(SNCE)の生起を検討した。その結果,(1)大報酬は習得の漸近値を有意に高める,(2)PREE,SNCEは生起しないが,(3)逆MREEが見られた。これらの結果は,(4)哺乳類の学習様式と異なること,さらに(5)報酬量移行に伴って生起するフラストレーションが,連合とは独立に作用し,哺乳類とは違った仕組みをもつことが示唆された。 (2)に関しては,先行研究が希少である中,位置(4年度)と視覚(5年度)の両課題でOREの生起を吟味した。T型弁別箱(4年度購入)を用いて左右又は白黒弁別訓練をした結果,(1)位置課題では過剰訓練(OT)は逆転に何らかの促進効果をもたらさなかった(no-ORE)。(2)視覚課題ではOTは逆転を有意に遅らせ逆OREが観察された。種々の実験変数を考慮すると,これらの結果は,(3)ラットのような哺乳類の結果と異質であること,(4)選択的注意説に従えば,カメの弁別学習は視覚優位型の鳥類の学習様式に似ていることが示唆された。
|