研究概要 |
1.癌・異型病変および良性病変における癌遺伝子および癌関連抗原の解析:乳腺の良性、悪性病変における癌遺伝子産物(c-erbB-2,ras p21蛋白)および乳癌関連抗原(MUC1,TAG-72,AM)の発現を免疫組織化学的に検討した結果、いずれも浸潤癌において強い発現が認められたが、正常および良性の非異型性病変ではその発現が殆ど認められなかった(ただし、MUC1とAM抗原は正常および良性上皮細胞の膜表面にわずかながら検出された)。一方、非浸潤癌(乳管内癌DCIS)ならびに前癌病変である異型上皮過形成(ADH)ではras p21蛋白、MUC1およびAM抗原の発現が認められた。 2.コンピュータグラフィックスによる乳癌組織の3次元復構:コンピュータグラフィックスを用いた乳癌の3次元復構により、乳癌が末梢乳管から発生すること、およびその進展様式を詳細に解析した。この結果に基づき、従来曖昧であった癌の乳管内進展の定義を「非浸潤癌巣が末梢乳管域を超え、中心乳管へ進展していること、または中心乳管域に明らかな非浸潤癌巣を認めること(intraductal spreading of carcinoma,ISC)」とした。癌の乳管内進展は乳房温存療法における再発の危険因子であることが次第に明らかになりりつつあり、このような乳管腺葉系の構造に立脚した癌の乳管内進展の解析は極めて重要である。 3.癌遺伝子産物および癌関連抗原の発現に基づく乳癌の発生および進展の解析:抗c-erbB-2(HER-2/neu)抗体(pAb1)、抗MUC1抗体(DF3)、および新しい乳癌関連抗原(AM抗原)を認識すると考えられるAM-1抗体を用いて、乳管内増殖性病変におけるc-erbB-2蛋白、ならびに乳癌関連抗原(MUC-1,AM)の発現を免疫組織化学的に検討した。その結果、乳管内癌(DCIS)のみならず、異型上皮過形成(ADH)においてもMUC1およびAM抗原の発現が認められた。この結果は乳癌に併存する乳管内進展病巣が悪性の可能性(malignant potential)を有することを示し、乳房温存療法における癌の乳管内進展の生物学的意義が明らかとなった。 4.乳房部分切除術への応用:我々は3次元構築により、乳管内病変が末梢で発生した乳癌から連続的に、または非連続的に進展することを示した。また、免疫化学的な解析により乳管内進展病巣がmalignant potentialを有することを明らかにした。さらに癌の乳管内進展を乳管腺葉系との関連で定義することで、より正確な癌の進展状態を把握することが可能となった。一方、臨床的には33例の乳房温存術標本の解析で、8例に癌の乳管内進展を認め、うち1例にのちに乳癌の再発を認めたが、乳管内進展なしの25例では癌の再発を認めていない。また、乳癌の多中心発生と乳管内進展の間に強い相関を認めた。従って、今後は乳管内進展を示す乳癌に対する内分泌療法、化学療法または照射療法などの治療反応性を検討する必要がある。
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