研究概要 |
顎嚢胞の増大機序における物理的な力(=メカニカルストレス)と病的な骨吸収の関連性を解明するため,嚢胞腔内圧ならびに顎嚢胞内容液の膠質浸透圧を直接計測した。また,嚢胞壁組織の血行動態をレーザードップラー血流計による計測を試み,嚢胞壁組織を試料として過酸化脂質を化学発光-HPLC法により,プロスタノイドおよび炎症性サイトカインをELISA法により測定した。更に,病理組織化学的手法を用いて過酸化脂質ならびに抗酸化酵素の局在性を検討した。その結果は以下の通りであった。 1.顎嚢胞腔内圧は平均27.4mmHgの値を示して膠質浸透圧に良く比例し,細菌感染もしくは炎症所見を伴い内容液の性状が変化すると内圧は変動した。嚢胞腔内圧と顎嚢胞の病理組織学的分類との関連は認められなかった。2.嚢胞壁組織直上の歯槽粘膜の血流は健常側に比べ低値を示した。3.嚢胞壁組織中にはPGE_2,IL-1β,IL-6,TNFαなどの骨吸収因子がすべて検出され,それらの値は嚢胞壁組織の炎症の強弱に比例した。4.抗酸化酵素の一種であるCu,Zn-SODは,嚢胞壁上皮層の内腔側並びに結合組織中の血管内皮細胞にその局在性が認められ,この知見は病理組織学的炎症所見並びに過酸化脂質の局在性と一致するものであった。 以上の研究結果より,顎骨嚢胞における骨の病的吸収は活性酸素・フリーラジカルに起因する組織傷害により嚢胞腔内圧が亢進し,そのメカニカルストレスが嚢胞壁組織の微小循環動態を更に悪化させ,骨吸収因子の生成につながることが明らかにされた。また内圧の亢進した嚢胞腔の内容液を抗酸化剤を含有する生理食塩水により置換する治療を繰り返すと,内圧の低下に伴い嚢胞の縮小が認められ,本療法の臨床的有用性が示唆された。
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