研究概要 |
ウナギ目魚類レプトケファルス幼生の食性およびその季節的ならびに地理的変化を調べるため,延岡湾,八代海,土佐湾および駿河湾で周年にわたって採集されたアナゴ科幼生488個体,ハモ科幼生6,ウミヘビ科58,クズアナゴ科14,ウツボ科19個体の計585個体について消化管内容物を精査した。その結果、これらの幼生の消化管の中から2種類の形ある餌が見いだされた。これらは形態学的特徴からそれぞれ,尾虫類のハウスおよぼその糞粒であることが明らかになった。その出現頻度は餌が見られた個体のうちの91%と極めて高く,尾虫類起源の有機懸濁物質が沿岸域に生息するこれら幼生の主要な餌となっていることが明らかになった.さらに,これらのハウスを位相差顕微鏡と走査電子顕微鏡を用いて観察し,ハウスの分類を試みたところ,Oikopleura dioica (ワカレオタマボヤ)やOlongicauda (オナガオタマボヤ)等のハウスであることが明らかになった。また,定性的には食性に季節的および地理的な変化はないことがあきらかになった。 これらの結果から,永年の謎であったレプトケファルス幼生がもつ特有の前方に突出する大型歯の機能は,尾虫類のハウスのようなゼラチナス浮遊物を把握するためのものであるととが明らかになった。さらに,大型の尾虫類のハウスに対してはその大型歯でハウスを突き刺し,ハウス内に含まれているナノプランクトンや溶存有機物等の栄養分に富む水を飲み込んでいることが強く示唆された。 以上のように当初に計画した研究目的,すなわち(1)レプトケファルス幼生の消化管内容物のん同定および(2)幼生の食性の地理的ならびに季節的変化の検討についてはほぼ満足できる成果を得た.今後は今回の科学研究費補助金によって得られた成果を基に,様々な条件で尾虫類を飼育し,そのハウスを幼生に与えることにより,摂餌行動,幼生の成長率など現在進行中のウナギ種苗生産研究の初期餌料開発に寄与する知見をさらに集積したいと考えている。
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