研究概要 |
近年の分子生物学の進歩は,大腸の多段階発癌過程において種々の癌関連遺伝子が関与することを明らかにしてきた。しかしながら,その報告の多くは,大腸の腺腫や進行癌をそれぞれmassとして解析したものであり,個々の症例について実際にそれらの遺伝子変化が生じる時期またその果たす役割などの詳細については不明であった。今回,我々が主に研究対象とした大腸腺腫内癌は,大腸のadenoma-carcinoma sequenceにおける最も初期の悪性病変ぶあり,癌化に関連した遺伝子変化の解析には格好の臨床材料である。また,我々の行っているmicroanalysisにより,同一症例から正常粘膜,種々の異型度の腺腫および癌の複数の検体を最小限のcontaminationのもとに採取し解析することができ,免疫組織化学をも含めた病理学的所見との対比も行えることから,病理組織レベルでの詳細な遺伝子異常の検索が可能である。今回の研究の結果,大腸のadenoma-carcinoma sequenceにおいて腺種から微小癌に到るturning pointにp53遺伝子の異常が関与していることが明らかになった。この事から,臨床上も大腸ポリ-プの悪性度の評価にp53遺伝子異常の解析が有用であることが示唆された。それに対し,K-ras遺伝子変異は従来からの報告と一致して腺種の異型度昴進との関連が確認されたが,腺腫と腺腫内癌との間でその変異率に差を認めず,癌化への関与は否定的であった。そして同一腺腫内の異なる異型度部分の解析からは,K-ras変異が異型度昴進の結果である可能性が示唆された。また,preliminaryではあるが,DNAミスマッチ修復系の異常によって生じるゲノム不安定性,ならびに細胞周期関連因子であるWAF1,cyclin D,cdc2/cdk2などの大腸腫瘍における解析も合わせて行い,いくつかの知見を得た。その結果の一部は既に,別記の学会ならびに論文にて発表している。
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