研究概要 |
本研究は口腔外科領域の悪性腫瘍で高頻度に見られる扁平上皮癌を動物実験レベルで作製し,前癌病変から発癌,さらにリンパ節転移巣を経時的に種々のモノクローナル抗体を用いて組織学的に解析するのが当初の目的であった.しかしラットの舌に既報に従いDMBA液を繰り返し擦過・塗布しても扁平上皮癌を発生させることができなかった.そこで,我々が先に確立した継代維持可能なラット扁平上皮癌株FF-6を用い抗ラット扁平上皮癌モノクローナル抗体「UB17」を作製し,その特性を明かにした.また,FF-6をラットの舌,あるいは口唇に移植した後,経時的に転移局所リンパ節の重量変化の推移,移植局所と転移巣における腫瘍の組織学的相違,UB-17抗体陽性細胞の変化などを観察した.また担癌ラットの血清中,あるいは腹水中にUB-17抗原が遊出しているかを免疫結合阻止反応で解析した. その結果,UB-17抗体はFF-6組織だけでなく,ヒトの扁平上皮癌組織にも反応し,一部正常ラットやヒトの重層扁平上皮組織とも反応する,やや特異性に欠ける抗原エピトープを認識する抗体であった.抗原は種々の試薬や熱に不安定で,分子量は同定できなかったが,免疫電顕用樹脂紫外線重合装置を用いての抗原の超微細局在を明らかにするのには有用であった.ラット腫瘍の舌,口唇への移植後,経時的に転移局所リンパ節の重量は増大していき,組織学には最初低分化型扁平上皮癌であったのが,次第に高分化型になっていった.また,担癌ラットの血清中,腹水中にUB-17抗原が遊出している可能性を示唆し,担癌ラットの病理学的診断ではなく,血清診断できる可能性を示した.
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