ジャガイモ疫病では、宿主のジャガイモ品種と疫病菌のレースとの間で寄生性が厳密に分かれている。ジャガイモ塊茎組織では、ファイトアレキシンであるリシチンの蓄積が抵抗反応の主役を演じている。ジャガイモ塊茎に疫病菌の親和性・非親和性レースを接種し、リシチン合成の鍵酵素である3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAリダクターゼ(HMGR)活性を経時的に調べたところ、本酵素活性は後者において顕著に増加した。全RNAを抽出してノーザン解析すると、構成的な蓄積に加え一過的なHMGR mRNAの蓄積増高がみられたが、両菌接種区において顕著な差は認められなかった。さらに、本酵素の活性化は新たなタンパク質の合成を伴うことを考え併せると、HMGRは転写以降から翻訳に至る過程で制御されるものと推定された。この可能性を探るために両菌を接種した塊茎組織から経時的に調製した粗酵素液中のHMGRタンパク質の量的変動を調べることを目的とし、HMGR cDNAよりタンパク質を合成して抗体の作製を試みた。しかしながら、十分な力価を有した抗体を得ることができなかった。そこで、本研究では本菌を接種した塊茎ディスクから経時的にポリソームRNAを調製し、HMGR mRNA量を調べた。その結果、ポリソームを形成したHMGR mRNA量の変動は酵素活性動向と相関し、そのレベルは非親和性菌接種区で顕著に高かった。さらに、12.5〜50%のショ糖密度勾配遠心により接種3時間後の塊茎ディスクからポリソームを分画してHMGR mRNAの分布を調べた。非親和性菌接種区に比べ、親和性菌接種区においてはラージポリゾーム画分でのmRNA量が少ないことが明らかとなった。接種6時間後になると、この傾向はさらに顕著になった。これらの結果より、HMGR活性の特異的経時変化はmRNAがポリソームを形成する過程(翻訳開始過程)で制御される可能性が伺われた。
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