研究概要 |
4種の紅色光合成細菌の光反応中心タンパク質複合体から得られたL,M両サブユニットのアミノ酸配列を我々の作成したCLUSMOL/Sシステムを用いて比較し、完全に保存された残基および物理化学的性質が保存された残基を抽出した。R.viridisの3次元構造から色素および上記の保存された残基部分を抽出し、拡張ヒュッケル法により電子状態を計算するための基礎的なモデルとした。実際の分子軌道計算においては、電子伝達前後の色素双方から6Å以内の距離にある非脂肪族側鎖を持つ残基を対象に含めた。色素間の交換、超交換相互作用による電子的カップリングの強さ、ならびに最低空軌道の色素間、残基側鎖の間での広がりを調べたところ、残基側鎖の役割に関して以下のような知見が得られた。(1)L181-PheおよびM208-Tyrの残基はH_M,B_M,P_L,B_LならびにH_L色素間での電子的カップリングの程度、ひいてはP→H_L間の電子移動速度に影響を与える。(2)M250-TrpはH_L→Q_A間の電子移動を起こすために決定的に重要な役割を果たしているが、対応するL216-PheはH_M→Q_B間の電子移動には不充分である。(3)Fe^<2+>イオンとそれに配位しているHisはQ_A→Q_B間の電子移動を起こすために重要である。(4)L162-TyrはHeme→P間で電子が移動するために必要である。 これらの知見は、これ自体が光反応中心におけるエネルギー生成機構を解明するために大きな意味を有し、今後遺伝子改変によるタンパク質設計において重要な指針を与えるものである。また、本研究で確立された方法論は、今後生体高分子の電子状態研究において広く活用されると期待される。
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