研究概要 |
本研究の目的は,「創造のための模倣活動」を美術教育の現場に適用するための具体的方法を,実証的知見に基づいて検討することである。平成18年度は,1.模倣から創造的な絵が生み出される認知プロセスの詳細なモデル化と,2.長期的な模倣を行なうことによる創造効果の持続性や発展可能性の検討,の2点を計画した。 1.について,大学生を対象に行なった描画実験データの発話プロトコル分析から,次の知見を明らかにした。すなわち,他者作品を模倣する過程では,具体的な描き方の学習だけでなく,作者の意図や姿勢についての抽象的な知識(「作者は描くものに対してイメージ生成を行なって描いているようだ」など)の構築が起こる。そして,自らの描画でもその抽象的知識を用いて描くことで,それまで持っていたプロトタイプ的な描き方が見直されると同時に,新しい描き方の探索が生じ,結果として創造的な絵が生み出されるという一連の認知プロセスを明らかにした。この結果からは,模倣を通して創造を促すためには,抽象的な知識構築を促す材料や学習環境の設定が有効であることが示唆される。また,イメージ生成という認知プロセスがみられるかどうかが,創造性を高める美術教育の支援や評価の一つの有効な指標となりうるともいえよう。この研究成果の一部は,カナダで行なわれた国際学会(Annual Conference of the Cognitive Science Society),および日本心理学会第70回大会のワークショップにて発表された。 2.については,5日間に渡って他者作品の模倣と,自らの作品の創造を繰り返す実験を計画した。この実験の実施には長期間を要し,また収集されるデータも膨大であるため,現在もデータ収集と分析の最中である。今後この実験結果も踏まえて(1)の認知プロセスをさらに詳細に明らかにし,より有益な教育的方法の提言を行なう予定である。
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