研究概要 |
本研究の目的は,他者の絵の模倣によって創造的描画活動が保進される場合に,そこに関与する要因を実証的に明らかにし,その知見に基づいて児童・生徒の創造性を育む美術教育の方法を開発することである。平成17年度は,(1)発話データを用いて模倣が創造を促進するときの認知プロセスの分析を行い,さらに(2)創造に対して促進的効果をもつような「モデルの絵のスタイル」と「模倣の方法」について心理実験に基づく検討を行った。 (1)については,以前の実験で採取した参加者のオンラインプロトコルを詳しく分析した結果,模写を行っていない学生は「何を描いたのかが他者にとってわかりやすい絵」を描こうとしたのに対して,画家の絵を模写した学生は「モチーフ(絵を描くときの題材)に対して自分が感じた印象や解釈に着目した絵」を描こうとしたことが明らかになった。この結果は,実験参加者がもつ「絵に対する考え方の枠組み」が模写によって変化したことを示唆している。他者の絵を模写する中で,その絵を理解するための新しい枠組みを構築し,その枠組み使って自らの絵を描くことで創造的な絵が生み出されるというプロセスが考えられた。この研究成果は7月にカナダで行われる国際学会で発表予定である。 (2)について,実験参加者が描いた絵の創造性評価を行ったところ,参加者にとってなじみの薄いスタイルの絵を模写した条件では,その後創造的な絵が生み出されやすいという結果を得た。また模写という形でモデルの絵と関わるだけでなく,長時間鑑賞した場合でも同様に創造を促す傾向が認められた。この実験結果は現在継続して分析中であり,来年度に学術論文もしくは学会発表の形で公表する予定である。
|