研究概要 |
真核生物の鞭毛の振動運動は,軸糸内のダイニンが引き起こす協調的な微小管滑り運動によって生じる.これまでの研究から,滑り運動の制御には鞭毛の屈曲によるダイニン活性制御が重要であることが示唆されてきたが,その制御機構の詳細は明らかになっていない.本研究の昨年までの成果により,屈曲によって軸糸内のダイニン活性部位が中心小管の両側で切り替わることが済りの切り替えの実態であることが明らかになった.また,最近の研究からADPがダイニンの非加水分解ヌクレオチド結合部位に結合することによってダイニン活性を制御することが示唆されている.そこで本年度の研究では,ADPが屈曲による滑りの切り替え制御に関与しているかどうかを検討した. 除膜してエラスターゼ処理をしたウニ精子鞭毛軸糸を用いて,異なるADP濃度条件下で軸糸の屈曲による滑りの切り替えを誘導する実験系を構築した.すなわち,低pH,apyase 存在下または高濃度Ca^<2+>,hexokinase存在下でcaged ADPの光分解またはADPを加えることによってADP濃度を増加させる手法を用いて,屈曲による滑りの切り替えに対するADPの効果を調べた.その結果,どちらの条件下でもADP濃度を増加させると屈曲によって滑りの切り替えが誘導される割合が増加した.この結果は,屈曲による滑りの切り替えにはADPの存在が重要であることを示唆する.これまでの知見と合わせると,屈曲によってダイニンへのADPの結合が起こりやすくなる,というような仕組みによって滑りの切り替えが誘導される可能性が考えられる. 屈曲によって軸糸内のダイニンの活性部位が中心小管の両側で切り替わることを証明した平成18年度の成果を,平成19年9月に弘前大学で開催された日本動物学会第78回大会で発表した.
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