研究概要 |
真核生物の鞭毛運動における微小管滑り運動の制御には,鞭毛の屈曲自体が関与することが示唆されてきたが,その制御機構はまだ明らかになっていない.本研究ではウニ精子鞭毛を用いて,軸糸の滑り方向の切り替えと屈曲方向との関係を調べた. 除膜した精子をローダミン染色し,エラスターゼ処理をした後に蛍光顕微鏡下でcaged ATPのUV分解によって少量のATPを与え,数回に分けて滑り運動を誘導した.光学顕微鏡レベルで屈曲の方向と軸糸の構造の対応がつけられるという,以前に開発した実験系と微小ガラス針を用いて鞭毛を曲げる系を組み合わせて,滑りの逆転を引き起こす屈曲の方向を調べた.その結果,頭部付近に屈曲のある鞭毛と,墓部を切断した鞭毛では滑りの逆転を誘導する屈曲の方向が異なることが分かった.この結果から,軸糸の滑りの切り替えには屈曲方向とダイニン・微小管相互作用の組み合わせが重要であることが示唆された.以上の結果を平成17年11月に神戸で開催された国際ワークショップ「ダイニン2005」で発表した。 また,屈曲により滑り方向が逆転した軸糸の滑り速度は,屈曲前の速度よりも減少することが示唆された.これは中心小管を介したCa^<2+>によるダイニン活性の抑制を反映している可能性がある.高濃度Ca^<2+>条件下では9+2構造の7番側のダイニンが活性化し,3番側のダイニンが不活性化することがこれまでの研究で示されている.ダイニンの活性部位が7番側から3番側に切り替わることによって滑りの逆転が引き起とされる場合には,Ca^<2+>濃度によって滑り速度が変化することが予想される.したがって現在,異なるCa^<2+>濃度条件下で屈曲による滑りの逆転を誘導し,滑り速度を解析している.
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