研究概要 |
新規光学活性ビピリジン配位子、5,5'-ジ(-)メチルベンジルアミド-4、4',6,6'-テトラメチル-2,2'-ビピリジン、(-)tmdcbpy、をもつキラル銅(I)錯体、[Cu((-)-tmdcbpy)(PPh_3)_2]^+ 1、[Cu((-)-tmdcbpy)(P(C_6H_4SO_3-m)-Ph_2)_2]^- 2を合成し、これらのMLCT吸収に相当する近紫外光照射下で[Co(edta)]^-の光還元反応を試みたところ、反応は速やかに、しかも、∧-[Co(edta)]^-が優先的に還元され立体選択的に進行した。1を用いた場合の選択性は44%eeであったが、2を用いた場合は17%eeであった。反応機構を消光実験から検討したところ、1では静的消光機構で、2では動的消光機構で反応が進行していることが明らかとなった。又、立体選択性は会合体形成過程、出会い錯体形成過程でなく、電荷分離過程もしくは逆電子移動過程で決定されている。1での高い立体選択性はカチオン性の1とアニオン性の[Co(edta)]^-が静電相互作用により出会い錯体内で強く相互作用しているためと考えられる。酸素共存下で、1、2に近紫外光を照射すると直ちに酸化的消光を受け銅(II)錯体が生成する。この銅(II)錯体はもし系中にCo(II)イオンが存在していれば、Co(II)イオンを酸化する。この反応をedta共存下、DMSO中で行ったところ、Δ-[Co(edta)]^-が過剰に生成し、光不斉合成反応に成功した。この反応は極めて溶媒依存性が強く、DMSO中でのみ進行可能であり、類似のDMF,HMPA中ではほとんど進行しない。PPh_3の代りに光学活性ポスフィン(+)-diopあるいは(-)-diopを配位させ2個所に光学活性点をもつ[Cu((-)-tmdcbpy)(+)-diop]^+ 3、[Cu((-)-tmdcbpy)(-)-diop]^+4を用いてこの光不斉合成反応を行ったところ、興味深いことに3では立体選択性が消失し、4では1に比べて立体選択性が向上した。以上のように、本研究では新規キラル銅(I)錯体の合成と、それを用いた光不斉還元、光不斉合成を行ない、多くの興味ある知見を得ることができた。
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