研究概要 |
食道の異形成病変を中心にp53遺伝子の異常を詳細に検索した。我々はパラフィン切片から顕微鏡下で上皮内異常細胞を剥離採取しPCR後,Tベクターに挿入しサブクローニングをしその後ABI 373Aシステムにて塩基配列を調べた。この方法ではかなりの時間と経費がかかった。そこで研究の後半においては、PCR法でp53遺伝子のhot spotについて増幅後SSCP法を用いて異常を検索し、異常のあった全例に対して塩基配列の検索を行った。 中等度異形成病変では、6病変中4病変において変異が確認された。高度異形成病変では、4病変中1病変において変異が確認された。これらの塩基配列異常は、ミスセンス変異5病変、ナンセンス変異1病変の計6病変であった。それらの半数はコドン273番であった。軽度の異形成病変では遺伝子の塩基配列に異常が確認されず炎再生変化の可能性が高いと推測された。中等度以上の異形成病変では、免疫組織化学法により異常発現のみならず塩基配列の検索でも変異が確認され腫瘍性病変と考えられた。遺伝子異常の面からは癌に限りなく近い存在と考えられた。また食道異形成病変を伴う食道癌の症例において異形成部分と癌部分の塩基配列を検索し,ほとんどの症例でトランジション型変異であった。また,異形成病変を伴わない食道癌についても塩基配列を調べるとトランスバ-ジョン型変異が多く認められた。異形成病変を伴う食道癌におけるp53変異がトランスバ-ジョンであり,異形成を伴わない食道癌がトランジション型である可能性が高いことは,すなわち食道癌に二種類存在することを示唆する。トランスバ-ジョンの多くが喫煙などとの関係が述べられ今後検討しなければならない問題である。
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