研究概要 |
我々はチロシン燐酸化蛋白の肺癌における生物学的役割を解析するために、肺癌細胞10株、肺癌手術症例44例に抗ホスフォチロシン抗体を用い、EGF-r, c-erbB2蛋白及びp125FAKの燐酸化とリンパ節転移並びに予後との関係から、その臨床的意義を検討した。基礎的にはEGF-r, p125FAKは肺癌細胞10株中9株に、c-erbB2蛋白は6株に発現があり、チロシン燐酸化蛋白の主要蛋白の一つがp125FAKであることを同定した。臨床的には肺癌手術症例44例中20例中に非癌部(正常肺)より癌部組織にチロシン燐酸化亢進が認められ、特にp125FAKの燐酸化は非癌部組織にはなく、癌部組織には認められたが、組織型には差はなかった。肺癌手術症例44例のうち追跡不能3例を除いた41例について、リンパ節転移との関係をみると、p125FAK燐酸化(+)はNO症例では29例中9例で、N1, 2症例では12例中9例であり、リンパ節転移と有意な関係があった(p<0.01)。p125FAKの燐酸化の有無でKaplan-Meier法による術後無再発率と生存率をみると、再発はp125FAK燐酸化(+)症例に多く、術後3年生存率はp125FAK(+)症例では56.3%で、(-)症例の82.0%に比べて低値であった。Coxの比例ハザードモデルを用いたrisk ratioはpT, p125FAK, pNの順で15.10、5.57、2.11であった。なおEGF-rの発現は臨床標本では弱く、癌部、非癌部組織双方にその反応がみられたが、燐酸化は確認されなかった。またc-erbB2蛋白は肺腺癌N2症例の2例に検出されたのみであった。 チロシン燐酸化蛋白、特にp125FAK燐酸化は細胞間の情報伝達に関与し、リンパ節転移と関係して、術後無再発率、生存率に影響し、肺癌において予後不良の指標となりうることが示唆された。しかし、EGF-r, c-erbB2蛋白に関しては明らかな予後との関係は認められなかった。更に現在p125FAK燐酸化と接着因子(E・カドヘリンなど)との関係も検討中である。
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