基礎実験として、EGF receptorは肺癌細胞9株中7株に発現が認められ、EGF刺激による肺癌細胞性チロシン特異的燐酸化亢進は9株全てに認められた。臨床的には肺癌手術例44例中20例に正常肺より癌組織にチロシン特異的燐酸化亢進が認められたが、組織型による差は認められなかった。特にチロシン燐酸化蛋白のうち主要蛋白の一つがP125FAK(focal adhesion kinase)であることを同定した。またP125-FAKを含む燐酸化とリンパ節転移との相関をみると、P125-FAKが癌組織に優位の燐酸化を認めたものはN_O症例では30例中8例に対してN_<1.2>症例は14例中12例であり、リンパ節転移症例に有意に多く燐酸化がみられた。以上の結果よりヒト肺癌組織においてP125-FAKを含む燐酸化がリンパ節転移に関与している可能性が示唆された(日本癌学会、1994発表)。また、P125-FAK燐酸化の有無でKaplan-Meier法による術後無再発生存期間を比較すると、術後経過観察期間が1年前後と短いが、リンパ節転移の有無と同様にP125-FAK燐酸化の有無で無再発生存期間に有意差が認められ、P125-FAKは原発性肺癌において予後不良の指標になりうることが示唆された。なお、臨床標本でのEGF受容体の発現は弱く、癌部、非癌部双方にその反応がみられるが、燐酸化は確認されなかった。またc-erbB_2蛋白は腺癌N_2症例の2例に検出されたのみであった。今後更に肺癌細胞内でのP125-FAKの作用機序と役割および肺癌細胞におけるチロシン特異的燐酸化と接着因子(ヒト・E・カドヘリンまたはα-カテニン・CD-44など)との関係、および肺癌リンパ節転移との関係並びにこれらの関係における線維芽細胞の関与とその役割などを検討する。
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