研究概要 |
前年度に引き続いて,クルマエビのサイナス腺に含まれる神経ペプチドを抽出,精製し,最終的に7種類の血糖上昇ホルモン(CHH)族ペプチド(Pej-SGP-Iν〜VII),赤色色素凝集ホルモン(RPCH),2種類の色素拡散ホルモン(PDH)を単離し,それらのすべてのアミノ酸配列を決定した.CHH族ペプチドは予想されたように,全体でアミノ酸72-77残基からなり,分子内に保存された6個のシステイン残基が存在していた. これらについて血糖上昇活性を調べた結果,7つのペプチドのうちIVを除く6つのペプチドが活性を有することがわかった.その活性はV,VI,VIIが最も強く,つづいてIIIとIが,そしてIIが最も弱いことがわかった.一方,IVはY器官からの脱皮ホルモンの分泌を抑制する活性を有することがわかった.また,V,VIも弱いながらこの活性を示した.イスラエル海洋陸水研究所のルブゼンス博士の協力を得て,これらのペプチドの卵黄形成抑制活性をin vitroの卵巣培養系でタンパク合成によって調べたところ,血糖上昇活性を示した6つのペプチドにタンパク合成抑制活性があることがわかった.また,その抑制は特定のタンパクではなく,すべてのタンパクについて見られた.血糖上昇活性を示したペプチドはすべてC末端がアミド化されており,これまで他の甲殻類から単離されたCHHもすべてアミド化されていることから,この構造が活性を示すのに必須であるかどうかを調べるために,カイコのバキュロウィルスの発現系を用いて,C末端をアミド化しない分子を得ようとしたが,うまく発現することができなかった. RPCHはこれまで他の甲殻類から単離されたものと構造的に全く一致した.2種類のPDHは3残基の置換があったが,活性の強さに違いは認められなかった.これらのペプチドの4種類の色素胞に対する反応性を時間の速さで比較したところ,赤,黄,黒,白の順で,凝集も拡散も反応性が弱くなることがわかった.
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