研究概要 |
正常大腸粘膜,過形成,腺腫,腺腫内癌および進行癌を対象に,細胞周期のpositive regulatorであるGl cyclin(cyclin D,E),cyclin dependent kinase(CDK2,4)とnegative regulatorであるCDK inhibitor(CDK4I/p16),RBの発現を免疫組織化学およびWestern blottingにより検討した。 まず正常粘膜においては,いずれの蛋白も概ね腺管基低部の少数の細胞に検出されるのみであった。過形成粘膜ではcyclin D,Eの発現が腺管基低部より上部の多数の細胞に認められた。腺腫においては,cyclin D,Eの過剰発現が高頻度に認められ,その頻度はそれぞれ,55/66(83%),42/50(84%)であった。腺腫内癌では,cyclin D,Eに加え,CDK2,p16およびRBの過剰発現も認められ,その頻度はcyclin D:8/8(100%),cyclin E:13/13(100%),CDK2:10/12(83%),p16:10/14(71%),RB:10/12(83%)であった。進行癌では,cyclin D:26/45(58%),cyclin E:41/45(91%),CDK2:34/45(76%),CDK4:39/45(87%),p16:59/60(98%),RB:34/45(76%)といずれの蛋白も過剰発現を示した。Western blottingによる定量的な解析からもこれらの蛋白が正常粘膜に比し癌組織において数倍過剰発現していることが確認された。また,進行癌においてはRB蛋白の高リン酸型(不活性型)の割合が正常粘膜に比し1.46倍増加していた。さらに進行癌症例の連続切片を用いた比較検討から,RBを強発現する癌細胞はcyclin E/CDK2を,CDK4を強発現する癌細胞はp16を同時に強発現していることが確認された。 以上の結果から,大腸のadenoma-carcinoma sequenceにおいては,過形成粘膜,腺腫の段階からcyclin D,E,腺腫内癌の段階からCDK2,CDK41/p16,そして進行癌の段階でCDK4が過剰発現しており,発癌・進展過程とG1 cyclin/CDK,CDK inhibitorなどの細胞周期制御因子の過剰発現が関与していることが示唆された。また,連続切片を用いた比較検討からRBのリン酸化には過剰発現したcyclin E/CDK2が関与する可能性が考えられた。
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