研究概要 |
本研究による成果は主としてつぎの2点にまとめられる. 第1は,経済の情報構造と市場で成立する価格の性質に関するものである.経済構成員の持つ情報が構成員の間で相互に異なっており多種多様であれば,各構成員の市場行動がたとえ合理的であったとしても市場価格がバブルを含む現象は発生する可能性がある.また,市場価格がバブルを含む状況が生じた場合,市場取引に参加している経済構成員の間で,市場価格が本来あるべき水準から乖離していることを市場取引参加者の間で,相互認識されていることに関して,誤った認識がなされていなければならない.これらの点が明らかにされた. 第2の成果は市場におけるフォワード取引の清算方式に関わるリスクとその回避についてである.本研究では,まず,外国為替市場における多通貨表示のクロスボーダーのフォワード取引を表現する理論モデルを構築し,それをベースに外国為替フォワード契約の異なるネッティング方式をモデルで表現し,それぞれの特徴をリスク削減効果の視点から理論的に比較検討した.市場取引主体が債務不履行に陥った場合,一般的には多数取引主体間におけるマルチラテラルなネッティング方式の下での方が,任意の2取引主体間で行なうバイラテラルなネッティング方式よりもリスク削減効果は大きいが,複数の取引主体が債務不履行に陥るような場合は,通常の理解に反し,マルチラテラルなネッティング方式よりも,バイラテラルなネッティング方式の下での方がシステム全体のリスク削減効果が大きいことがあり得ることを示した.
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