研究概要 |
多重極展開の考え方は、短距離の力学と長距離の力学を系統的に分類することにあり、素粒子物理のみならず物性物理、特に量子伝導現象の研究に有効である。解像度の変化と共に物理系にどのような対称性が現われるか知ることにより、系の相転移や集団励起を議論できる場合は多い。この考え方を踏まえながら,平成7年から9年の3年度にわたり、主に量子ホール効果の根幹に関わる諸問題を研究した。その内容は以下の通りである. 1.ホール電流が試料の内部を流れるのかそれとも試料端に限るのか理論的に特定することは、量子ホール効果の本質に関わる重要な問題である。これに関して、局在が原因となってホール電流のかなりの部分が系の端を流れるようになるという考えを以前に提唱したが、新たにこの考えの基盤をなす「局在状態の不動性」と「ホール電流の補償」がゲージ不変性に由来していることを(以前より直接かつ一般的な形で)指摘する論文を発表した。 2.併行して、この端電流の描像を検証するべく、計算機を用いたホール電流分布に関する数値実験を行った。期待に沿った結果が得られたので、目下論文を執筆している。予備的な考察は既に発表した。 3.上記の数値実験を通して、ホール電場は試料中の電子の局在を解くように作用するという事実から「量子ホール効果の消失」に関する実験結果が説明できることに気づいた。現在、詳細な検討を始めたところである。 4.不純物のないホール電子系の電流分布の数値的な解析も行った。端電流の分布と方向が端電子状態の出現とともに大きく振動することに気付き、この振動とドハース・ヴァンアルフェン効果との関連を指摘した。 5.ホール電子系のマクロな電磁的性質はW_∞ゲージ理論という普遍的な枠組に集約できることを指摘する論文を発表した。この理論の枠組と多重極展開の考え方を駆使した実用的な計算方法を現在開発している。
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