研究概要 |
さまざまな集団を対象として、環境有害物質への曝露量とこれらの代謝物の尿中濃度を測定するとともに、PCR法を用いてアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)、チトクロムP-450(CYP1A1,CYP2E1)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼM1(GSTM1)、N-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)の遺伝子型を判定し、薬物代謝酵素の遺伝子多型が代謝・排泄に及ぼす影響について検討した。 トルエンから馬尿酸への代謝はALDH2の遺伝子型により影響をうけた。不活性型ホモ接合体の人では正常型ホモ接合体の人に比べて、トルエン曝露による馬尿酸の尿中排泄が有意に低かった。ヘテロ接合体の人では両者の中間の値を示した。また、トルエン取り扱い作業者の過去の健康診断時の尿中馬尿酸濃度は、不活性型ALDH2のホモ接合体の人ではすべて3.0g/l以下であった。ピレンの代謝物である1-ピレノールの尿中濃度は喫煙者および肉や魚をより多く食べる人に高かった。対象者を非喫煙者、低喫煙者、高喫煙者の3群に分けて、それぞれの尿中1-ピレノール濃度と薬物代謝酵素の遺伝子多型との関係を調べたが、いずれの代謝酵素の遺伝子多型も尿中1-ピレノール濃度との関係を認めなかった。ニコチンの代謝物であるコチニンの尿中濃度は、低喫煙者群、高喫煙者群ともにCYP2E1のwild typeであるc1/c1型の人よりもmutant typeであるc1/c2型およびc2/c2型の人で高くなっており、CYP2E1の遺伝子多型がニコチン代謝に影響を与えることが示唆された。カフェイン代謝では同じ量のコーヒーまたは紅茶を摂取しても喫煙者では尿中カフェイン濃度が低くなり、代謝が亢進していることがわかった。また、NAT2のRapid acetylatorの人では、コーヒーあるいは紅茶の摂取が多い傾向が認められた。
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