研究概要 |
歯肉接合上皮の破壊は,単に上皮細胞の破壊や変性・剥離によるものだけではなく,ヘミデスモゾーム構成分子(α_4β_6インテグリンや類天疱瘡抗原;BP自己抗原)あるいはヘミデスモゾームの付属構造(基底膜成分およびVII型コラーゲン)の破壊によってもたらされていることが考えられる。そしてこれら構成タンパクの破壊には,炎症局所に多数浸潤している好中球が合成・分泌するメタロプロテアーゼ,とくに92-kDゼラチナーゼ(MMP-9)が中心的な役割を演じている可能性が考えられる。そこで本研究は,歯肉溝滲出好中球のアポトーシス制御とヘミデスモゾーム構成分子の破壊について,これを92-kDゼラチナーゼとの関連において検討した。好中球アポトーシスの制御に関する検討において,炎症性サイトカイン,リポポリサッカライド(LPS)あるいは歯肉溝滲出液(GCF)の添加によるヒト好中球の経時的な生死を観察した。その結果,72時間経過時で未処理の好中球の生存率は15%程度であったのに対して,IL-1βおよびIL-6添加好中球の生存率はそれぞれ48%および61%を示した。さらにこうした傾向はLPSあるいはGCF(成人性歯周炎および早期発症型歯周炎患者由来)添加好中球においても観察された。これらの結果は,GCF中好中球の細胞死がその環境因子によって制御されている可能性を示唆している。つぎに,GCF中のゼラチナーゼ活性を検討した結果,成人性歯周炎および早期発症型歯周炎患者由来のGCFにおけるゼラチナーゼ活性は,健常者由来のそれと比較して明らかに高い値を示した。さらに,この活性の主要なバンドは好中球由来型(92-kD)と一致していた。つぎに,92-kDゼラチナーゼのヘミデスモゾーム構成分子におよぼす影響を検討するため,リコビナント180-kD類天疱瘡抗原(BP180)を用い,92-kDゼラチナーゼによる分解能を検討した。その結果,92-kDゼラチナーゼは細胞外ドメインのコラーゲン部分を分解することが明らかとなった。これらの結果を総括すると,GCF中への好中球の滲出とそこでのアポトーシスの制御に伴う過剰な92-kDゼラチナーゼの分泌は,歯周病における歯周ポケットの形成あるいはその深化に関与している可能性を示唆している。
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