研究分担者 |
高橋 智 大阪大学, 理学部, 助教授 (70226835)
松田 裕之 東京大学, 海洋研究所, 助教授 (70190478)
幸田 正典 大阪市大学, 理学部, 教授 (70192052)
遊磨 正秀 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (80240828)
山岡 耕作 高知大学, 海洋生物教育研究センター, 教授 (20200587)
西田 睦 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (90136896)
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研究概要 |
本研究では,最近発見された魚類の左右性に焦点を当て,それが種内・種間関係においてどのように働いているかを精査し,またそれによって群集内での種間関係の動態を新しい観点から解明した.すなわち,琵琶湖水系に生息する魚類について,野外でのサンプリングによる各魚種の左右性の比率の観測,形態学的な検討,実験室での飼育による遺伝様式の解明,数理モデルによる左右性の動態のメカニズムの解明と予測を行った. 琵琶湖産の魚類7種について左右性の比率を4年間追跡したところ,どの種の比率も数年周期の振動を示唆していた.また,1995年のサンプルで,年級群に分けることができるほど大量に採取された魚種について,年級群ごとの左右性の比率を算出したところ,その比率も数年周期で振動していることを強く示唆していた.また,食性の近い種の比率は同調する傾向が認められた.さらに,捕食-被食関係にある代表的な2種,アユとハスについての比率を詳しく検討したところ,やはり数年の周期で振動していた.ただしこの2種の振動の関係を詳しく検討するには,さらに何年かの継続観察が必要である.京都大学生態学研究センターに保存されているイサザのサンプル15年間分を検討したところ,本種の左右性も数年周期で,比率0.4から0.6の間を振動していることが確認された. 左右性の遺伝様式についてカワヨシノボリを実験室で繁殖させ,その親子での比率を検討したところ,優性ホモ個体が致死の1遺伝子-2対立形質の遺伝であることが示唆された.種間関係に応じて左右性の比率が変動するメカニズムについて数理モデルを構築し,解析的な検討を行った.それによると,肉食魚の個体群において,少数派の利き手が多数派の利き手に対して2倍以上の繁殖成功度を得るならば,左右性の比率は振動すること,また,肉食魚の左右性の比率は食性グループごとに同調して振動することが示された.後者のメカニズムとしては,捕食者の少数派の利き手個体は,種の違いを越えて少数派ゆえの利益を共有するためと考えられた. これらの結果から,これまで見過ごされてきた左右性という種内多型が魚類では普遍的現象であり,またその多型は群集内の種間関係によってダイナミックに維持されていることが明らかとなった.
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