研究概要 |
ラット海馬より作成した、全脳虚血24時間後(コントロール及びsham operated)でのSuppression subtractive hybridizationを用いたsubtracted cDNA library(L.Diatchenko,1996)より得られた約2000個のクローンをlibrary自身によりdifferential screeningし、100個以上のクローンを得た。さらにこれらのクローンをすべてDNA sequenceを行いアミノ酸配列を決定し、データベース(DDBJ)上にてBLASTプログラムによるホモロジー検索を行った。20%以上のクローンがラットの既知の遺伝子と同定され、その中からrandomに選んだ10個のクローンに関してoligonucleotide primerを作製し、RT-PCRにてmRNAレベルにて発現の解析を行ったところ、半数(5個)のクローン(saposin,neutral and basic amino acid transportor,synaptotagmin 4,furin,heat shock protein 105)においてsham operatedの2倍以上の発現の増加を認めた。これらのクローンに加え、ラットnNOS.iNOSのspecific primerを作製し、ラット海馬における経時的なメッセージ発現の推移を解析した。その結果本実験系では特にnNOS、furinが虚血前に比べ虚血後に著明な発現量の増加を示し、これらが脳虚血後の神経細胞死及びその修復過程の分子機構に関与している可能性が示唆された。nNOSが虚血後の神経細胞壊死に重要な関与を持つことは従来より指摘されているが、furinに関してはその機序は不明である。蛋白質としてはpropreteinを開裂する機能を持つことより、様々な神経成長因子やホルモンの前駆体を修飾、活性化し、脳虚血後の修復過程に関与していることが推測された。同定された他の遺伝子も虚血前に比べ虚血後24時間後に2〜3倍以上のメッセージ発現の有意な誘導を認め、これらが本実験系において重要な関与を果たしているものと考えられた。lNOSに関しては、虚血後に発現量の増加を認めるものの、その発現は微量であった。今回得られたクローンの中にlNOSが含まれなかったのもこのためと推測される。このように本法は脳虚血後の神経細胞死及びその修復過程という現象の分子機構における新たな遺伝子の関与を知り、解析する手がかりを得られる有用な手段となることが判明した。
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