研究概要 |
ニューロモジュリン(NM)(別名:GAP-43)は神経生成長錐に多く含まれており,神経軸索再生に関与していると想像されているタンパク質であるが,その詳しい機能は明らかになっていない.私達は一貫してパーキンソン病の研究を行っており,NMの変化を通してドパミン神経の変性とその再生について考察してみた.今研究期間で以下の結果を得た. 1. 前シナプスに存在するタンパク質であるシナプシンI,シナプトタグミン,シナプトブレビン,シンタキシン,SNAP-25,NMのなかで黒質線条体ドパミン神経に相対的に多く含まれているのはNMであった. 2. 線条体の神経終末はほとんどが皮質線条体路由来であり,そのため黒質線条体路のNMの変化がマスクされてしまった. 3. ドパミン神経毒である6-OHDAを多量に線条体に投与すると遅発性の逆行変性で黒質のドパミン神経は死んでしまったが,少量では一過性の軸索変性の後徐々に再生する. 4. 神経終末(=線条体)のNMとチロシン水酸化酵素(TH)は徐々に回復しているのに細胞体(=黒質緻密部)のNMmRNAとTHmRNAは逆に減少してしまった. 以上の結果から,条件がそろえばドパミンニューロンはsproutingするが,その際NMの変化は余り大きくなく,NMとTHは徐々に回復しているのにそれらのmRNAはダウンレギュレートしてしまった.これがパーキンソン病でドパミン神経細胞が特異的に障害される理由かもしれない.今後は線条体でドパミン神経に属するNMの変化を特異的に観察するために,共焦点レーザー顕微鏡を用いての実験や,今回はNMとTHしか検討しなかったがドパミンニューロンに含まれているハウスキーピング遺伝子のmRNAが減少しているかの検討も行ってみたい.また,このmRNAの減少がドパミンニューロンに特異的なのか,他の神経系,たとえば再生能がドパミンニューロンより高いセロトニンニューロンなどを用いての実験も行ってみたいと考えている.
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