研究概要 |
固有遺存植物は多くの場合,その生育地が分断され,小集団が点在している。このような種における遺伝的多様性の解析はこれまでにあまりなされていないし,一方でにもかかわらず,その実体の解明は種の保全の観点からもたいへん重要である。こうした背景で本研究を進めた。さて,集団の遺伝的多様性の解析は従来アイソザイムを用いる手法によって主に行われてきた。アイソザイムでの分析の解像力がちょうど集団内,集団間の解析に向いているからであるが,一方,それ以上の解析には進めないといううらみがあった。しかし,DNAの塩基配列の解析はもっと大きなレベルか逆に親子関係レベルの解析かの両極端でしか現在のところ用いることが出来ない。そこで本研究ではアイソザイムの結果をさらにDNAレベルでアイソザイムそのものの系統関係を調べることを目的とした。DNAではアイソザイムの同義置換をも解析出来るなどの利点があるからである。 具体的には固有遺存植物としてヒトツバタゴを取り上げ,まずそのアイソザイムレベルの解析を行った。その結果は論文として出版した。ヒトツバタゴは日本では岐阜県の東濃地方と対馬とだけに極めて局限されて分布し,かつ個体密度の違いなど,典型的な遺存状態を示している。解析の結果,東濃地方は生育面積は対馬の集団よりもはるかに大きいにもかかわらずその遺伝的多様性はかなり低い傾向にあり,また両集団間ではある程度の遺伝的な隔たりがあることが判明した。この違いをアロザイム間の系統関係の解析にまで持っていくのが本研究の目的であるが,その方法論の開発のために,互いに近縁なハイマツとキタゴヨウでの遺伝子交流でのDNAレベルのマーカーを見つけ,その流動関係を探ることにより,ヒトツバタゴでの解析に応用する計画を立てた。この計画にしたがってハイマツとキタゴヨウでの細胞質遺伝の浸透性交雑と細胞質捕獲の現状と機構の解析を行い,幾つかの論文として公表した。
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