研究概要 |
本研究では,補体と細胞膜結合型補体制御因子の消化管における生理・病態生理的意義を,主にラット,ヒト,モルモット胃粘膜を用いて検討を行なった.ラットでは,左胃動脈を30分クランプ解放した際の胃粘膜上皮障害における補体の役割を検討したが,補体を枯渇化するCVFの前処置も,補体活性の阻害剤であるK-76COOHのいずれも虚血後に起こる粘膜障害を抑制した.ラット補体制御因子512抗原をモノクローナル抗体を用いた免疫組織科学では胃粘膜上皮,胃粘膜血管内皮に強い局在を認め,512抗体を用いての512抗原の機能阻害実験でも虚血後粘膜障害の増悪が観察された.ヒト胃粘膜ではdecay acceleratimg factor(DAF),membrene cofactor protein(MCP),homologous restriction factor 20(HRF20)を検討したところ,特に,DAFの発現が炎症(好中球・リンパ球浸潤)の程度と統計学的に有意に相関しすることを見いだした.また,Helicobacter pylori(Hp)感染者の胃液中の補体C3濃度および胃粘膜DAFの発現を除菌の前後で検討では,酸度の低い胃液ではHp感染者にC3濃度が高く,除菌が成功するとDAFの発現程度が減少することが判明しつつある.モルモットは現時点で唯一実験的にDAFの発現を遺伝子,蛋白レベルで検討できる動物種であるが,左胃動脈と大網動脈を30分間クランブしたモデルで,胃組織のDAFを検討した.免疫組織化学では,虚血後24時間,3日に,胃粘膜上皮細胞に有意なDAFの発現を認めたが,7日後には虚血前のレベルに低下した.Northern blottingでは,虚血後6時間の胃粘膜でRNA量が明らかに増加し,特殊なプローブを用いたRT-PCRでのisoformの検討では,膜貫通型が有意に増加していた.これらの成績から,特に虚血・循環障害による胃粘膜障害には,補体・補体制御因子系が重要性な役割を演ずると考えられた.
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