歯原性嚢胞は歯科および口腔外科臨床においてよく認められる顎骨病変であり、その発生機序は歯牙うしよくに原因し、歯槽骨を吸収しつつ拡大し増大していくことから重要なものである。しかしその発生や増大に関しては不明な部分が多く、その病態や増大機序については十分に解明されているとは言えない。歯原性嚢胞の嚢胞壁は一般に結合組織性の線維性被膜とともに内面は数層あるいはそれ以上の上皮細胞層から構成されているが、炎症の存在などにより上皮は欠落することもしばしば見られる。そこで本研究では歯原性嚢胞の増大に関係すると予想される嚢胞壁の物質透過性について実験的研究を行った。研究材料には歯根嚢胞の臨床診断のもとに摘出手術を行った嚢胞を用いた。現病歴で過去に急性炎症を惹起せずまた術中に窄孔などがなく摘出された嚢胞を用いた。材料は摘出後、Hanks solutionにて2回洗浄し、試作した自家製の培養チェンバー内に嚢胞璧が隔壁になるようにセットし、気層の条件を95%O2-5%CO2とした実験群と95%N2-5%CO2とした対照群とで、両チェンバー内の物質の濃度を経時的に測定して嚢胞壁を介する移動を計算した。両チェンバー内の液を一方は患者血清とし、他方を5%ブドウ糖液とした場合、経時的に3時間までの間に5%ブドウ糖液中に増加してくる血清成分の増加は実験群ではナトリウムおよびクロールについては実験群で大きく、透過性が認められたが、そのほかのタンパクや起炎性物質の関与は低く、嚢胞壁が活動性に物質輸送や炎症性サイト力インの分泌に関与している証拠は得られなかった。
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