嚢胞は口腔外科領域の疾患を代表するものの1つであるが、成因や増大に関しては不明な部分が多く、その病態は十分に解明されていない。ことに、増大に関しては数十年前に内圧の亢進による周囲骨の圧迫吸収によるとされている。内圧の亢進の原因については詳細に検討されていないが、内圧が亢進する因子のひとつとして嚢胞壁の透過性が考えられる。そこで、歯原性嚢胞を用い、嚢胞壁の透過性について検討を加えることとした。今年は、in vitroの実験系の確率と電解質の透過性について検討を加えた。 嚢胞は重層扁平上皮、肉芽層および線維性結合織の被膜によって覆われ、中に内容物(液)を含み、Cohenは炎症の強くない嚢胞でも電顕上で上皮細胞間に白血球が観察されたため、嚢胞上皮細胞間の結合は疎でありその間を蛋白質分子や血球は通過すると考えた。一方、金子は歯根嚢胞など数種の嚢胞に関してその内溶液と血清とを比較して嚢胞内外の電解質、蛋白質、コレステロールなどに差異があることを認めた。すなわちナトリウムやカリウムは血清をより低く、クロルは血清との間に差異が認められず、蛋白質は多くみられたと報告している。われわれはP.C.Senの装置を参考に、嚢胞壁の透過性を検討するチェンバーを作製し、電解質の測定を行った。ナトリウム及びクロールは実験開始30分後より嚢胞内側の濃度の上昇が認められたが、カリウム及びカルシウムでは3時間経ても内側の濃度上昇は認められなかった。
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