研究概要 |
本研究では魚類における食欲調節機構を分子レベルで明らかにすることを目的としている。これまでの研究によって、食欲亢進に重要な役割を果たすと考えられる、グレリン、ニューロペプチドY(NPY)およびアグチ関連タンパク(AgRP)や、食欲を抑制すると考えられる、レプチン、pro-opiomelanocortin (POMC)ならびにコカイン-アンフェタミン調節転写物(CART)等の遺伝子をフグやニジマス、大西洋サケ、クロソイ、ホシガレイ等において多数同定し、一部においては機能解析も行ってきた。得られた遺伝子情報の詳細なデータベース解析を行った結果、これまでにほ乳類では1種類しか知られていなかったCART遺伝子が、トラフグで5種、ミドリフグで4種、ゼブラフィッシュで4種、トゲウオで4種およびメダカで6種存在することが明らかになった。そこで本年度は、特にCARTの数が最も多く発見されたメダカを対象として、1)データベース上で発見された6種のCART全てが転写されるのか、2)転写されるCARTの内どれが食欲調節に関与しているのかを確かめた。まずメダカCART遺伝子を網羅的にクローニングしたところ、6種全てのcDNAを単離することができ(染色体番号から、cart ch3,4,6,9,11,22と命名)、データベース上で見つかったCARTは全て偽遺伝子ではないことが明らかとなった。次に得られた配列から各遺伝子の発現量測定系を確立し、絶食再給餌の影響を確認した。メダカCART ch3は17日間の絶食により脳での発現量が減少し、再給餌を開始することでもとのレベルにまで回復した。その一方で、その他5種のCARTホモログ遺伝子は本実験で絶食の影響が確認されなかった。これらのことから、メダカで発見されたCARTの内、ch3遺伝子が主に食欲調節に関与することが強く示唆された。
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