所属研究室で癌遺伝子産物Rasの類縁分子Rap2がMAP4K (TNIK、MINK等)を介して細胞の形態、接着、極性、運動等を制御することが見いだされたが、これらの現象はJNK非依存的であった。本研究では、Rap2-MAP4K複合体によるJNK非依存性表現型の解析とRap2-MAP4K複合体により発現量やリン酸化状態が変化する蛋白質やRap2-MAP4K複合体に結合する蛋白質をプロテオミクス的手法で解析している。 解析材料として、マウスに移植して扁平上皮癌を形成しても殆ど転移しない低転移性株と、この親株から樹立したRap2を発現しない高転移性株のペアを選び、ディファレンシャル二次元電気泳動(2D-DIGE)とMALDI-TOF/MSによるPMF法とMS/MS法で両細胞株の蛋白質発現プロファイルを比較した。その結果、本来は腺上皮など単層上皮で発現するサイトケラチン8および18が後者で異所性に発現していた。ウエスタン解析やRT-PCRでも同様の結果が得られ、免疫染色でも後者にのみ両ケラチンにより形成されたフィラメントを認めた。Rap2を発現しない高転移性株はin vitroで親株に比べ高い運動能・基底膜浸潤能を示したが、親株に両ケラチンを発現させると、運動能の促進と基底膜浸潤能の促進が見られた。さらに、附属病院の皮膚扁平上皮癌症例を対象に両ケラチンの免疫組織染色解析を行ったところ、形質転換したケラチノサイトが表皮基底膜を越えて浸潤した症例で陽性例の頻度が統計学的に有意に高く、両ケラチンの異所性発現が皮膚扁平上皮癌の浸潤に関与すると結論づけて報告した。
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