研究概要 |
本研究の目的は,発酵有機酸の新しい in situ 膜分離プロセスを開発することにあった.生分解性ポリマーであるポリ乳酸の原料として注目されているL-乳酸の製造には,発酵法が用いられるが,乳酸の生成物阻害および分離精製法が複雑であることが問題であった.このため,生成物阻害を軽減するために,発酵と同時に乳酸の分離を行うシステムが注目されていた.なかでも分離プロセスとしての溶媒抽出法は,経済性の観点から有望な手法のひとつと認識されてきた.しかし,乳酸を抽出するためには抽出剤を用いる必要があり,発酵至適pH(5-6)で乳酸の抽出が可能なイオン交換抽出剤は,乳酸菌にたいしてきわめて強い毒性を示した.そこで多くの研究では毒性は比較的低いが,抽出できるpH領域も発酵至適pHよりも低い3級アミンなどが用いられてきた.しかし生産性の面では問題があった.そこで本研究では,発酵至適pHで高い抽出能力を示すイオン交換抽出剤と乳酸菌との直接の接触を妨げるために,この抽出剤を含浸させた三酢酸セルロース膜およびポリスチレン製のマイクロカプセルを作成し,これらに抽出剤を含浸させる方法を提案した.三酢酸セルロース膜へのイオン交換型抽出剤の含浸は成功し,非常に高い透過流速を得ることもできた.しかし発酵液からの乳酸の分離は可能であるが,発行液に溶解した微量の抽出剤の影響で高い生産性は得られなかった.そこで抽出剤のより強い保持能力を期待してマイクロカプセルへの含浸を試みたが,うまく含浸できなかった.そのため毒性の低い抽出剤の発酵至適pHでの抽出能力を向上させるために,乳酸抽出の協同効果を検討し,トリオクチルアミンとリン酸トリブチルが高い協同抽出能力を示すことを見出した.この協同系をマイクロカプセルに含浸させ,乳酸の分離を試みた.毒性は軽減でき,乳酸発酵への応用の可能性が示された.
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