研究概要 |
レンサ球菌表面にCD15s様抗原が発現しており,この菌の病原性に何らかの役割を果たしていることが考えられる。この抗原を解析するために,菌体より莢膜様構造を単離・精製を行った。この標品はimmunoblot法により分子サイズ約400〜500kDaのタンパクを含まないバンドとして検出された。その構成糖の分析により,N-acetyl glucosamine,fructose,galactoseなどが検出された。また,本抗原は小麦胚芽レクチンとの反応が非常に強いこと,およびシアリダーゼ処理により抗CD15sモノクローナル抗体との反応性が失われる事などからシアル酸を含んでいることが示唆された。 また,この抗原の発現に及ぼす抗生物質の影響を検討したところ,ペニシリンGおよび細胞壁合成のごく初期段階に働くホスホマイシンにCD15s様抗原の発現抑制作用が認められた。さらに興味深いことには,抗菌作用を全く有さないホスホマイシン鏡像体にも同様の作用が認められた。 ヒト類似抗原を発現した微生物により,自己免疫反応が惹起されることはHelicobacter pyloriなどで示されている。そこで,マウス歯肉よりS.intermedius死菌体を持続的に接種し,各臓器への影響を検討した。その結果,本菌死菌体の持続接種により自己抗原であるCD15sに対する抗体価が上昇した。また,肝臓には臓器特異的な炎症反応が惹起された。組織および脾臓リンパ球の解析により,肝臓に多数浸潤していたCD8陽性T細胞が,CD15s結合・認識能力の高い少数のCD4陽性T細胞に調節され,CD15sを発現している肝細胞の障害に関わっている可能性が示された。従って,CD15s様抗原を有するS.intermediusによる口腔内の慢性感染症の存在は,肝臓に対しての自己免疫反応を惹起する可能性が示唆された。
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