研究概要 |
本研究の目的は,明治末期から昭和初頭にかけて,全国120余りの農山村地域に設立された町村営電気事業について,戦前の財政構造が自治体に独立税源を与えない中,とりわけ財源に乏しい農山村地域において,莫大な費用を必要とする電気事業を行い得た地域的条件を究明し,その地域的成立条件を明らかにしつつ,戦前の電気事業の中心であった民営電灯会社との地域的分業構造を究明することにあった。 岐阜県における町村営電気事業を概観しつつ明らかになったことは,町村営電気事業の特性を考察すると,まず第一に自治体が経営するという事業の公共性から,地域一斉点灯という地域課題を持っていたことである。このことは,高い地域電灯普及率を実現していたことから理解された。すなわち,地域完結型の電気供給システムを構築していたのである。第二には町村営電気事業の設立に際して,地域住民が寄付金を通して深く関わっていること。これは寄付金の存在が資料により明確に確認されたことによる。そのさい,宮村に現れた「水力電気指定寄付人足整理簿」の分析が未完であるが,関連資料の収集を行い,分析を行うことを課題としておきたい。そして第三には莫大な初期投資を必要としたが,経営効率の良い電気事業経営は自治体の自主財源となることを十分に予測し,財源の乏しい山村地域にとっては地域経営上のメリットが大きかったのである。 事例として取り上げた飛騨川流域においては,村営電気の開業した東白川村,宮村,黒川村は共に,開業年からみた場合,民営に先行するものではなかったが,東白川村,宮村共に大正の初めに村営電気事業に着目していた事実は,都市や主要地域における電灯導入が刺激となった点も否めないが,自治体が電気事業を経営するための「地域的課題」を有していたことに起因するともいってもよい。すなわち,電気事業経営の必要性が早くから認識されていたのである。逆説的に言えば,町村営電気事業の立地しなかった地域は「地域的課題」を明確に持っていなかったとも言えよう。公営電気事業と民営電灯会社の供給地域をめぐっての地域的分業は,このような地域的諸条件の上に成立したとも考察できる。
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