研究概要 |
報告者は1994年、tbという発生初期に神経管が屈曲して脳形成がおこるミュータントをメダカで発見した。神経管は脳の原基なので、その発生を研究する事によって、脳形成に関する様々な事柄を明らかにすることができる。本研究の目的とするのは、神経管の形態がなぜ異常になるのか、を明らかにすることを通じて、脊椎動物の脳形成に関する基本的な理解を得ることにある。 まず、新規の神経管形成異常のメダカミュータントを求めて新たに誘発突然変異体の収集を進めた。体の透明なカルト系統の雄を2mMのENU溶液で2時間処理した後、3世代交配法により、そのF_3子孫で実体顕微鏡によるスクリーニングを行った。その結果、総計約90系統の突然変異体を収集するのに成功した。その大部分は常染色体劣性遺伝の突然変異であった。このうち、神経管異常のものとしては、脳室のできないもの1系統、水頭症をひき起すもの4系統、特定の神経分節が欠失するもの1系統、神経細胞が発生過程で細胞死を起こすもの12系統、などが得られた。いずれも、脳の発生を生きたままみることのできるメダカだからこそ見つかったミュータントである。形態学的な解析を行ったところ、このうちの幾つかのもの(Oot,act,gac,nnc,hit,hir,htl)は脊椎動物の脳形成に関して基本的に重要な新規な表現型であることが判明した。特に、Oot(one-sided optic tectum)のような脳の左右対称性が一時的に破れる表現型が見つかったのは世界ではじめてである。
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