報告者は1994年、tbという発生初期に神経管が屈曲して脳形成がおこるミュータントをメダカで発見した。その後、tb以外の新規の神経管形成異常のメダカミュータントが幾つか得られた。本研究の目的とするのは、メダカミュータントの形態がなぜ異常になるのか、を明らかにすることを通じて、脊椎動物の神経管形成に関する基本的な理解を得ることにある。 本年度は、Oot(one-sided optic tectum)の発生形態学的解析ならびに遺伝様式の解明を開始した。この表現型では、神経管の中脳部が左右それぞれ外方に膨大し、視蓋を形成する段階で、中脳部の左・右半分の片方のみが外方に膨大し、他方はそれに追随するようにかえって内側に膨大する(落ち込む)。その結果、左右対称性の破れた視蓋が一過性に形成される。神経管が分化してゆく際に、左右対称的な膨大とくびれを形成しつつ初期脳を形成するが、この段階が視蓋領域で特異的にしかも一過性に異常になったものと思われる。その後、視蓋の成長とともに、内方に落ち込んでいた視蓋半球は外方に翻りはじめ、最終的にはほぼ正常の形態になった。このミュータントは孵化して生存する(生存突然変異)。このような脳の左右対称性が一時的に破れる表現型が見つかったのは世界ではじめてである。脳の発生を生きたままみることのできるメダカだからこそ見つかったミュータントである。
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