研究概要 |
近年我々は、自然飛散状態におけるスギ花粉症の病態に、好酸球顆粒蛋白[Kato M et al.(1994)Brit J Clin Pract48:299-301;Kato M et al.(1995)ORL57:269-2721や可溶性接着分子[Kato M et al.(1995)Clin Exp Allergy 25:744-748;Kato M et al.(1996)Allergy 51:128-132;Kato M et al.(1996).Arch Otolaryngol Head Neck Surg 122:1398-1400;Kato M et al.(1998)Ann Oto Rhinol Laryn 107:232-235]が関与している可能性を示してきた。平成10年度、我々は、自然飛散状態におけるスギ花粉症患者のtumor necrosis receptor(TNF)および可溶性TNFレセプター1(sTNFRl)、可溶性TNFレセプター2(sTNFR2)を測定し、健常者と比較することにより、これらの分子が、花粉症の病態に関与している可能性を示した[Kato M,et al.Allergy(in press)]。また、我々は、血清可溶性Fasの値が、スギ花粉症患者と血管運動性鼻炎の鑑別に有用であることを示した[Kato M,et al.J Allergy Clin Immunol(in press)]。さらに、我々は、可溶性Fasが、ギ花粉症のみならず、重症感染症(帯状庖疹)の病態にも関与している可能性を示した[Kato M,et al.(1998)Brit J Dermatol 138:1091]。 一方、我々は、メタロチオネイン(MT)をプロモーター・エンハンサーに用い、がん遺伝子RETを導入し、遺伝子背景をC57BL/6にすることにより、世界で初めて自発的に皮膚悪性黒色腫を高率に発症し、転移をおこす新系統のトランスジェニックマウス(304/B6系)の樹立に成功した[Kato M,et al.(1998)Oncogene 17:1885-1888;加藤昌志、他(1998)病理と臨床16:1149-1152]。このマウスでは、腫瘍未発生期→良性腫瘍期→悪性腫瘍期と腫瘍が進展するにつれて、腫瘍の発生母地となる皮膚と腫瘍のRetおよびその下流のシグナル伝達分子とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の蛋白発現量と活性レベルが亢進していた。さらに、我々は、小柴胡湯が、腫瘍細胞のセルサイクルの拘束とMMPの発現抑制を介してこのマウスに発症した腫瘍の増殖と転移を抑制し、延命効果を示すことを報告した[Kato M,et al.(1998)J Invest Dermatol 111:640-644]。また、我々は、このトランスジェニックマウスでは、Ret蛋白に対する免疫寛容が成立しているため、Ret蛋白を高度に発現している腫瘍に対する免疫監視機構が作用せず、腫瘍の増殖を招くことを見出した[Kato M,et al.Oncogene(in press)]。以上のように、我々は、皮膚悪性黒色腫発症動物モデルを作製したのみでなく、その病態と発生原因を一部解明するとともに、有効な治療法を示した。
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