研究概要 |
日本・ロシア・韓国・台湾・ネパールの各地で採集されている小哺乳類を材料にして,「ヒマラヤ回廊」に由来すると思われるものの進化学的解析をおこない,以下の知見を得た. 1.分子系統:mtDNAチトクロームbの塩基解析によって日本産ヒナコウモリ科9属の分子系統を明らかにした.2.染色体:ハタネズミがM.oeconomusに由来することを確定した.台湾産Crocidura attenuataの核型を明らかにした.ミズラモグラの核型を分染法により検討した.台湾産キクチハタネズミの染色体のG-バンドパターン分析とXY染色体の対合状態を日本産ハタネズミと比較してシナプトネマ構造の形成を確認し,ヒマラヤ回廊上のハタネズミ属の類縁関係を考察した.台湾産ケムリトガリネズミ属2種の核型の相違を明らかにした.日本と日本周辺に生息するニホンモグラ属の染色体分染法による解析からこれらの系統関係を明らかにし,さらに韓国産Mogeraの系統的位置を考察した.台湾産キクチハタネズミとネパール産シッキムハタネズミの染色体核型を示し,両者がともに精子形成の際に性染色体対合を行うことから,日本産ハタネズミと台湾産キクチハタネズミがともにヒマラヤ回廊に由来する可能性を議論した.3.形態:日本各地に生息するニホンイタチとチョウセンイタチの個体群に由来する標本を用いて頭骨の計測学的研究を行い,両種の形態学的な特徴を明らかにした.歯と骨格の形態学的特徴から,日本産ヒメヒミズ・ヒミズ・ミズラモグラ・センカクモグラ・トガリネズミ類の系統関係を示し,その由来を論議した.4.寄生虫:日本国内の陸上哺乳類に寄生する寄生虫相のリストを作成し,ヒマラヤ回廊に関する寄生虫の移動経路を推定するための基礎資料とした.
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