研究概要 |
Pixelated Photon Detector(PPD)は,ガイガーモードで動作し,単光子検出能力を持つ新型の半導体光検出器である.極薄型,常温での低電圧動作など優れた性能を持つPPDは,2009年に開始したニュートリノ振動の精密測定を行うT2K実験において世界で初めて本格的かつ大規模に導入されたほか,高エネルギー物理学実験における今後の応用が強く期待され,各実験ごとに研究が進行中のデバイスである.PPDは今後の開発によって光電子増倍管を凌駕しうる可能性を秘めるが,そのためにはさらなるダイナミックレンジの確保や低ノイズ化・感度波長領域の拡充などが求められる.しかしこれらは高増倍率化・高検出効率化と両立しえないことがPPD開発における課題となっており,この課題を解決することでPPDの基本性能を向上させるのが本研究の目的である. 前年度までで半導体デバイスシミュレータTCADを用いてPPDの内部構造から基本特性を予測することに取り組み,定常的な解析においては,実機のPPDの性能を半定量的に再現し,TCADが実用に耐えうることが確認できているが,クェンチング機構を再現するために必要な動的な解析ではさらなるシミュレーションの開発が必要である.また,筆者らの提案する3次元積層キャパシタについての実現可能な形状についての考案を,特にプロセスの容易さと電場構造の一様性の観点でTCADを用いて進めた.採用終了に当たる当該年度の時点では,試作品の製作に足る構造と制作プロセスの決定までには至らなかったが,TCADを用いた構造設計の試行を通じて,具体的な3次元の積層キャパシタ構造のために必要な要件について知見を得ることができた.
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