研究概要 |
質問紙法による性格テストの項目への回答が,被検者のどのような心理的過程の結果として決定されるかを,認知心理学において重要な測度である反応潜時を指標として検討した。質問紙には,項目のさまざまな特性が比較的よく調べられている,MMPI新日本版を使用した。 本研究では反応潜時をコンピュータ化実施MMPIによって測定した。その結果,反応潜時を質問紙の項目への回答過程の解明に適用した先行研究と同様に,記述内容が各自が持つ自己についてのシェマ(schema)に近い項目を肯定するときの反応潜時は,その逆の記述内容の項目を肯定するのに比べ短いという結果を得た。 しかし,質問紙の項目への回答には,自己についてのシェマを参照するだけでなく,反応の偏り(response bias)も影響していることが,多くの研究から知られている。これらの反応の偏りを生み出す心理的過程が,質問項目の内容自体に関する自己についてのシェマを参照する過程とどのように関連しているかを検討するために,今回は,隠蔽性と黙従傾向を測定した。 項目隠蔽性の測定では,隠蔽性に「採点方向の隠蔽性」と「異常性の測定に不適切」の2つの意味があることが確認された。この2つの隠蔽性を区別し,反応潜時に影響を持つのはどちらであるのかを検討することが課題として残された。 黙従傾向については,元の項目で構成されたオリジナル版テストと肯定否定を逆転した項目で構成された逆転版テストを作成し,これらの2つの版をそれぞれを2週間おいて,同一被検者に実施した。データの収集が終わった段階であり,今後,分析を早急に行い,項目の隠蔽性と黙従傾向が項目の反応潜時にどのように影響しているかを検討する予定である。
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