研究概要 |
1.発生期マウス顎下腺におけるラミニン-5ならびにラミニン-α5鎖の発現を特異抗体を用いて免疫組織化学的に調査し,他のアイソフォームの発現と比較した.ラミニン-5は、筋上皮基底膜で発現するのみにとどまらず,一部の導管基底膜でも器官形成の初期から発現し始めることが判明した.ラミニン-α5鎖は胎生初期ではラミニン-α1鎖と,新生仔ではラミニン-5と似た発現様式を取り,ラミニン-α2鎖とは何れの時点でも異なることが判明した. 2.ラミニンα5鎖Gドメインの機能を明らかにするために,その部位に由来する15種の細胞接着活性合成ペプチドをin vitroの唾液腺器官培養系に添加し,それらの機能を調査した.α5鎖由来ペプチドを250g/mlで添加し,3日後に外植体を調べたところ,α5鎖のアミノ酸残基3307-3318に由来するLVLFLNHGHFVA配列(以下A5G-77)に唾液腺原基の分枝形態形成を阻害する活性を認めた.最小活性配列を求めたところ,A5G-77のN末側のLVLFLNHGH配列(A5G-77f)にまで活性部位を絞り込めた.従来報告してきたα1鎖由来ペプチドのAG-73処理では基底膜の形成障害が観察されているのに対して,α5鎖由来のA5G-77f処理では基底膜の連続性が保たれ,α1鎖とα5鎖が上皮器官形成においてそれぞれ異なった機能を果たすことが示唆された. 3.胎生13日目のマウス上唇部のひげ原基を単離し,無血清条件下での器官培養系を確立した.この系を用いて,22種類のラミニン-1由来の細胞接着活性ペプチドをアッセイし,RKRLQVQLSIRT配列(以下AG-73)が毛包形成を阻害することを見い出した.AG-73は今回明らかになった毛包に加え,唾液線や皮膚の器官形成をも阻害することから,上皮系器官の組織構造形成のメカニズムの解明のための有力なツールである.
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