研究概要 |
我々は1989年から歯科医療が皆無に近いネパールで歯科診療を実施し,1994年からは歯科疾患の予防を目的にフッ化物洗口プロジェクト,健康教育を実施してきた.これは途上国の住民が自分たちの力で科学的な根拠を理解した上でう蝕や歯周疾患の予防ができることをも目指している.この研究ではフッ化物洗口の有効性を評価するとともに,住民自身が自分たちで健康教育を展開するためのプロセスを学問的に企画・実行・評価してきた.以下に3年間の研究の結果,考察の概要を示す. 1.今日フッ化物洗口法のう蝕予防効果は,広く認められることであり,我々のフィールドの小学校でも1994年からフッ化物洗口プロジェクトを展開している.現地の学校教員に対する予防教育の結果,現在15校で2,397名が定期的にフッ化物洗口を行うようになった. 2.学童のう蝕罹患状況をフッ化物洗口の実施の有無によって考えると,フッ化物洗口を実施してきた学校と実施していない学校ではこの7年間でDMF歯数やDMF者率に差がでてきたようである. 3.村の教員や保健所職員らに対し歯科疾患の予防教育(歯の構造,プラークコントロール,除石法などの教育)を展開し,3年間で延べ218名に行った.この結果,リーダーとなる住民が生徒や一般住民に予防教育できるようになり,ブラシの習慣のなかった村人がブラッシングするようになってきた. 4.研究終了の今年度は健康教育において住民が自立できるかどうかを判断するため,これまで我々が行って来た口腔保健専門家養成コースの講師を教育されたネパール人に実行させ,講義や実習の進め方,資料の作り方等を評価した.また,専門家養成コースを終了した先生が日常学校で生徒に健康教育している現場に立ち会ってその実施状況を評価した.その結果,70%程度は実行できているが,まだ我々の援助が必要であると思われた.今後さらに住民の自立に向けた歯科健康教育を推進し,住民自身の力で健康を守れるようにしたい.この研究は現在も継続中であり,近い将来ネパール全土に展開したい.
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